SCM強化のための“港選び戦略”
港湾選定がSCMにもたらす影響とは?
港の選定は、単なる地理的な問題ではありません。実際にはサプライチェーン全体のコスト、納期、在庫回転率に直結する極めて戦略的な要素です。
例えば、ある港を利用することで「海上運賃は安いが陸送距離が長くなる」ケースもあれば、「海上運賃は高めだが港から倉庫までの距離が短い」というように、最適解は一律ではありません。加えて、通関・検疫のスムーズさ、港湾の混雑状況、災害耐性といった周辺要素も港選びには大きく関与してきます。
港湾選定がコストに与える具体的影響
港湾選定によるコスト差は想像以上に大きくなります。
例えば、同じ貨物を名古屋港と神戸港で取り扱った場合、港から納品先までのトラック輸送距離に50kmの差があれば、1台あたり数千円〜1万円程度の運賃差が発生する可能性があります(2025年時点、4t車チャーター便の地域別平均運賃より試算)。これが月間50本、年間600本の輸送になれば、年間数百万円単位の差となり得ます。
また、港湾使用料、バース(接岸スペース)の混雑具合による待機時間、通関業務の混雑度など、目に見えにくい「タイムコスト」も無視できません。通関が半日遅れるだけでも、下流工程(製造や出荷)に遅延が生じ、機会損失につながるケースもあります。
デジタル化が進む“港湾サービス”の選定ポイント
近年、港湾におけるデジタル化が加速しており、以下のような先進的な港湾サービスを備えた場所は、SCM全体の最適化に貢献しています。
- 可視化システム(Visibility):トレーサビリティの強化により、貨物の入出港状況をリアルタイムで把握可能。
- 電子タグやIoTセンサーの導入:特に食品や医薬品など温度管理が必要な貨物に対して有効。
- オンライン予約システム:トラックバースの事前予約により、待機時間の削減。
- 港湾とWMS(倉庫管理システム)の連携:データ連携により荷役から倉庫搬入までを自動化。
このようなサービスを積極的に導入している港は、単なる荷揚げ拠点を超えて、SCMの中核として機能する“スマート・ポート”として評価されます。
港湾選定におけるBCP(事業継続計画)の視点
SCMを考える上では、コストや効率だけでなく「継続性・リスク管理」の視点も欠かせません。以下のようなリスクに対して、複数港の活用・代替経路の検討が重要になります。
- 地震・津波・台風などの自然災害:特に日本の太平洋側の港湾では、南海トラフ地震のリスクが指摘されています。
- 港湾ストライキや物流混乱:海外港(例:ロサンゼルス港やシンガポール港)では近年頻発しており、日本への波及リスクもあり。
- サイバー攻撃:電子化が進む中で、港湾システムが攻撃対象になるケースも。BCP対応が進んでいる港の評価が高まっています。
BCPを意識した港湾選定では、以下のようなアプローチが有効です。
- 複数港への分散(例:東京港と横浜港の併用)
- 内陸型代替施設(例:内陸デポ、通関所)との接続性確認
- 地方港や中規模港の活用(混雑緩和・災害リスク低減)
中小企業における“港湾アライアンス”の可能性
港湾選定は大企業だけの課題ではありません。近年では、中小企業同士が連携し、以下のようなアライアンス型輸送戦略を活用する事例も増えています。
- バイヤーズコンソリデーション:複数の発注者が港で貨物をまとめて輸入する仕組み。輸送効率が高まり、LCLコストを圧縮可能。
- 地域アライアンス:同一地域の事業者が港選定とフォワーダーを共通化。陸送費の削減とトラック手配効率化を実現。
このように、「一社単独では選びづらい港」も、協業や連携を通じて有効活用できる場合があります。特に地方都市の中小企業にとっては、港湾アライアンス戦略がSCM強化の大きな鍵になります。
まとめ:港選びは“価格”ではなく“全体設計”で考える
港湾選定は単なる地理・コスト比較ではなく、SCM全体の設計と強く結びついています。港湾の立地、サービス品質、デジタル対応、BCP性、さらにはアライアンスの可否など、さまざまな要素を総合的に評価し、最適な選択を行うことが、これからのSCM強化に求められます。
SCMにおける港選びのポイントまとめ
- 港から自社倉庫・納品先までの距離と輸送費を精査する
- 通関・検疫体制、バースの混雑状況も比較する
- 港のデジタル化レベルを確認(トラッキング・可視化・API連携)
- BCP観点で、災害・トラブル時の代替ルートを確保しておく
- 中小企業はアライアンス戦略で地方港を活用することも有効
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