国際輸送では、不可抗力条項(フォース・マジュール)の適用をめぐるトラブルが頻発します。特に、地政学的リスクによる航路変更やそれに伴う追加コストの負担に関しては、輸送契約の解釈や責任の所在をめぐって紛争が発生することがあります。
例えば、紅海周辺での攻撃により航路が変更された場合、その追加コストを荷主が負担すべきなのか、それとも船会社やフォワーダーが負担すべきなのか?が争点となります。
この記事では、不可抗力条項の適用に関する具体的な事例と、問題発生時の対応策について詳しく解説していきます。
不可抗力に関するコストトラブル
不可抗力条項とは?
不可抗力条項とは、天災、戦争、ストライキ、政府の規制変更など、当事者の制御が及ばない事象によって契約の履行が不可能または困難になった場合に、当事者の責任を免除する条項です。国際輸送では、自然災害や地政学的リスクが関係するケースが多く、船会社や航空会社は不可抗力を理由に契約内容の変更や追加費用の請求を行うことがあります。
航路変更による追加コストの発生
最近の事例では、紅海周辺の安全リスク(海賊行為)が高まり、一部の船会社がスエズ運河経由のルートを避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回するケースが増えています。このような航路変更は、次の追加コストを負担することにつながりやすいです。
- 航行距離の増加による燃料費の上昇
- 長期間の輸送による保管コストの増加
- 運航スケジュールの変更による港湾利用料の追加
- 輸送の遅延に伴う荷主側の損害(生鮮品の品質劣化など)
この場合、不可抗力条項が適用されるか?が争点です。船会社は「不可抗力による迂回」として追加コストを荷主に請求する一方、荷主は「契約時に定められた航路変更リスクの範囲内」として支払いを拒否することが多いです。
具体的な不可抗力条項をめぐるトラブル事例
事例1:航路変更による燃料サーチャージの増加
ある貿易会社がスエズ運河経由で輸送を予定していた貨物が、紅海の治安悪化により喜望峰経由に変更されました。その結果、燃料サーチャージが大幅に増加し、船会社はその費用を荷主に請求しました。しかし、契約書には「燃料サーチャージは事前の通告なく変動する」との記載があり、荷主は異議を申し立てることができませんでした。
事例2:航空貨物の迂回ルート適用による追加料金請求
アジアからヨーロッパ向けに輸送された高級医薬品が、ある地域の政情不安により通常の経由地を変更し、より長いルートを使用せざるを得なくなりました。その結果、輸送コストが20%増加し、航空会社はその費用をフォワーダー経由で荷主に請求しました。荷主は「不可抗力であることは理解するが、追加費用の負担について事前に合意していない」として異議を申し立てました。
事例3:港湾ストライキによるコンテナ滞留と追加費用
北米の主要港で労働者のストライキが発生し、コンテナが長期間滞留する事態が発生しました。船会社は不可抗力条項を理由に、港湾での保管料やコンテナの管理費を荷主に請求しました。しかし、荷主は「輸送契約に基づく適切なリカバリー策が取られていない」として支払いを拒否し、最終的に法的紛争に発展しました。
不可抗力条項をめぐる紛争を防ぐための対策
1.契約書における不可抗力条項の明確化
不可抗力条項の範囲と適用条件を契約書で明確に定義することが重要です。特に、航路変更や追加コストの発生が予測される場合、それらの費用負担がどのように分担されるか?を明記することで、紛争のリスクを小さくできます。

契約書でリスクを低減しましょう!
2.追加コストの負担範囲を事前に確認する
フォワーダーや船会社と事前に協議し、航路変更が発生した際の追加費用の負担について明確に合意しておきます。また、燃料サーチャージや保管料の計算方法を事前に把握し、不当な請求を防ぐための対策も重要です。
3.不可抗力の発生時における対応方法を検討しておく。
事が起きてからでは遅いです。平時から不可抗力が発生した場合の対応方法について関係者と協議しておきましょう!契約上の免責事項や保険の適用範囲についても事前に確認し、リスク管理を徹底することで、予期せぬコストの負担を防げます。
実際に不可抗力に関するトラブルが発生した時の対応手順
不可抗力条項をめぐるトラブルが発生した場合、冷静かつ迅速な対応が求められます。以下の手順を踏むことで、紛争の長期化を防ぎ、適切な解決策を見出すことが可能です。
1.事実関係の整理と証拠の確保
不可抗力による影響が発生した場合、まずは輸送状況の詳細を整理し、関連する書類や証拠を確保します。
具体的には….
- 航路変更の通知や通達書
- 船会社やフォワーダーとのやり取り(メールや通話記録)
- 燃料サーチャージや追加費用の請求書
- 輸送契約書の不可抗力条項の内容
などを整理し、後の交渉に備えます。
2.契約内容の確認と条項の適用範囲の検討
契約書に記載されている不可抗力条項が、今回のケースに適用されるかどうかを確認します。
- 「不可抗力」の定義が何を含むのか
- 費用負担について明記されているか
- 事前通知義務があるかどうか
を精査し、相手側の請求が契約に基づいているのかを確認します。
3.関係者との交渉
不可抗力が発生した場合、フォワーダー、船会社、保険会社などの関係者と迅速に交渉を開始します。
ポイントは、
- 追加費用の合理性について説明を求める
- 事前合意のない費用については異議を申し立てる
- 契約上の免責事項を明確にする
- 必要に応じて支払いの一部免除や分割支払いの交渉を行う
などの対応を取ることです。
4.法的措置の検討
交渉が決裂し、不当な追加費用請求が継続する場合、法的措置を視野に入れる必要があります。
必要に応じて…..
- 契約法に詳しい弁護士に相談する
- 国際仲裁機関(例:国際商業会議所の仲裁裁判所)に仲裁を依頼する
- 保険会社に補償の適用可能性を確認する
などの対応方法を検討し、正当な請求額のみを支払うよう対応します。
5.再発防止策の策定
同様のトラブルを防ぐために、今後の輸送契約の見直しや、
- 契約時に不可抗力条項を明確にする
- 追加費用発生時の対応方法
- 危険地域を通る場合のリスク評価
- 輸送業者の過去の対応実績
などの対策を講じることで、より安全な取引を行うことができます。
まとめ
国際輸送における不可抗力条項の適用をめぐる紛争は、地政学的リスクによる航路変更や追加コストの負担をめぐる争いが中心となります。特に、紅海周辺の情勢悪化に伴う航路変更や、港湾ストライキによる遅延などは、輸送契約の解釈をめぐる対立を引き起こしやすいです。これを防ぐためには、契約書における不可抗力条項を明確にし、追加コストの負担範囲を事前に合意し、対応プロセスを策定することが重要です。適切なリスク管理を行うことで、予期せぬトラブルを回避し、安定した輸送を実現しましょう。