近年、世界各地で海賊行為が急増しており、国際貿易に携わる企業にとって非常に大きなリスク要因となっています。この記事では、インコタームズ(国際商業条件)における海賊リスクの取り扱いと、荷主が考慮すべき実務的なポイントについて解説します。
海賊リスクとインコタームズ
インコタームズにおけるリスク移転
インコタームズでは、売主から買主へのリスクの移転時点(海賊リスク含む)が明確に定めています。主要なインコタームズにおける、海賊リスクの所在を確認しましょう。
FOB(本船渡し)条件の場合
- リスクの移転時点:貨物が輸出港で本船の手すりを越えた時点
- 海賊リスクの所在:基本的に買主が負担する
- 船積み後の海賊リスクは買主が負担
- 適切な海上保険の手配が必要
CIF(運賃保険料込み)条件の場合
- リスク移転時点:FOBと同様に本船の手すりを越えた時点
- 海賊リスクの所在:基本的に買主が負担する。
- 売主が海上保険を手配する必要あり
- 売主が手配する保険の条件が海賊リスクをカバーするかを確認
海上輸送で取り入れることが多いFOBやCIFは、どちらも輸出国側でリスク負担が買主側に切り替わります。よくCIFのリスク負担は、輸入港で切り替わるとの勘違いがあります。
しかし、CIFは、売り手が輸入港までの輸送費と保険代金を負担するだけであり、リスク負担は、FOBと同様、輸出国側で切り替わります。費用負担とリスク負担の移転時期が違う点に十分に留意します。
また、CIFは売り手側が国際輸送+海上保険の手配をします。後述しますが、海上保険にはカバー範囲があるため、売り手に対して、海賊リスクも補償されるか?を確認します。
海賊リスク対策のポイント
海賊リスクへの対策を3つほど、ご紹介します。
- 輸送ルートを検討する。
- 適切な海上保険の付保
- 契約書での明確化
1. 輸送ルートを検討する。
適切な輸送ルートの選択から考えます。海賊が多発するエリアは、下記に示す表の通りです。日本の場合は、原油の輸送とヨーロッパとの貿易において大きな影響を受ける可能性が高いです。
他、近年、経済発展が著しい東南アジア諸国、重要な中継港であるシンガポール方面でも海賊リスクが高まっています。
これらの国々(特にヨーロッパ方面や中東、アフリカ方面)と貿易をする機会が多い方は、今一度、最新の海賊発生情報をフォローすることをお勧めします。
また、重要な製品、例えば、これがないと生産ライン止まる~等の場合は、航空輸送への切り替えや代替の輸送ルートを考えるのが賢明です。後述の通り、海賊被害は、2024年10月現在も現在進行形である点に十分に留意するべきです。
主な地域 | 発生状況 | 影響を受けやすい国々 |
ソマリア沖・アデン湾 | ソマリア沖・アデン湾は2008年から2011年にかけて海賊事案が急増し、国際的に大きな問題となる。この海域は、スエズ運河を経由してアジアとヨーロッパを結ぶ重要な海上交通路上にあり、多くの商船が通過せざるを得ない場所です。 | ヨーロッパ諸国 中東諸国 原油関連 アフリカ諸国 |
ギニア湾 | 西アフリカのギニア湾、特にナイジェリア沖で近年海賊事案が頻発 | ナイジェリア、ガーナ、コートジボワールなどの西アフリカ諸国との貿易 |
マラッカ海峡およびインドネシア周辺 | アジア地域では、マラッカ海峡およびインドネシア周辺で海賊事案が多く発生 | インドネシア、マレーシア、シンガポール: 直接貿易+中継港 インド、スリランカなどの南アジア諸国、中東諸国 |
フィリピン周辺 | フィリピン周辺海域も海賊事案の発生が報告されている。 | フィリピン、ベトナム、タイなどの東南アジア諸国 |
スールー海・セレベス海 | 2020年には、スールー海・セレベス海およびマレーシア・サバ州東部海域で船員の誘拐事案が発生 | フィリピン、インドネシア、マレーシア |
情報元:商船三井
2.適切な海上保険の付保
適切な海上保険を付保していることを確認します。海上保険には、対応するリスク範囲に応じたランクがあります。必ず保険がカバーする範囲を確認します。
- ICC(A)=海賊保険に対応
- ICC(B)及び(C)=非対応(追加の特約を盛り込める)
例えば、特に海賊リスクが高い地域に輸送する場合は、、船舶戦争保険やハイリスク地域向けの追加特約を検討することをお勧めします。ICC(B)や(C)に追加で申し込み。
3.契約書での明確化
基本的に海賊に対するリスクは、インコタームズや海上保険によりある程度、コントロールができます。しかしながら、大枠の合意事項の中にある細かな部分でトラブルになることが多い為、予め下記の点について売買契約書などに規定をした方が良いです。
- 海賊リスクの負担者を明記する
- 保険を手配する側の責任の明確化する
- 代替ルート選択するときの費用負担者を規定する。
海賊リスクを管理するためのポイント
次に海賊リスクを少しでも引き下げるためのポイントをご紹介します。
- 事前の情報収集
- 保険内容の見直し
- 取引先との協力関係
1.事前の情報収集
事前に航路上の危険地域を把握します。上述のエリアの他、貿易保険の地域・国ごとの引き受け条件の国々を見ると、ある程度、判断ができます。直接的な貿易だけではなく、シンガポール港などを経由する積み替え船などを利用する場合も注意が必要です。
最新の海賊ライブマップ
海賊行為は、2024年現在も現在進行中です。必ず確認しましょう!
ICC Commercial Crime Services (CCS)
2.保険内容の見直し
外航貨物保険は、輸出又は輸入か?あるいは、インコタームズにより、ご自身が付保するのか?又は相手側が付保するのかが変わります。
もし、ご自身が保険を付保することが多い場合は、定期的に補償範囲や料金の見直し、あるいは免責事項の確認をすることをお勧めします。
実は、外航貨物保険には、料金や補償範囲、免責事項などを見直しをする専門の会社があります。何十年と同じ所と保険等を契約していると、高い金額を払い続けている可能性もあります。一定の期間を区切り他社の意見を取り入れることも重要です。
- 保険ブローカー
- リスクコンサルティング会社
- 大手損害保険会社のコンサルティングサービス
- 海運・貿易関連のコンサルティング会社
- 独立系保険代理店
当然、外交貨物保険は安ければいい!物ではないです。海賊リスク等を含む国際輸送上のあらゆるリスクを下げられる点が最も重視するべき点です。
3.取引先との協力体制
他、海外の取引先との密な連絡も重要です。リスクが高い地域を輸送する場合は、できる限り輸送上のリスクを説明し、両者で確認を取っておくことが重要です。その上で、契約書への記載、適切なインコタームズの選定等によりリスク管理をします。
万が一、緊急事態にいたったときは、その対応手順を確認すると良いでしょう。
例えば、その貨物が届かないと壊滅的な被害が発生する等であれば、予め、代替輸送手段として航空輸送を想定し、早急に追加で送るべき優先商品をリスト化しておきます。また、この場合における、追加のコストシェアにもついても事前に合意しておきます。
おわりに
海賊リスクは、適切な対策を講じることで軽減可能です。インコタームズの選択と保険カバーの確保を通じて、リスクの適切な管理と対策を実施することが重要です。定期的なリスク評価と対策の見直しを行い、安全な貿易取引の実現を目指しましょう。