国際航空貨物輸送は、貿易において重要な選択肢の一つです。特に電子部品や医薬品、精密機器など、高付加価値製品の輸送には最適です。しかし、航空輸送を始めて利用する方にとって、その手続きや規制は複雑で戸惑うことも多いです。
この記事では、航空輸送の基礎知識から実務の流れなどを初めての方でも理解できるよう、体系的に解説していきます。
初めての航空輸送の基礎
航空輸送とは?
航空輸送は、航空機を使用して貨物を国際間で輸送することです。貿易取引では、重量ベースで約1%、金額ベースで約35%を占める重要な輸送手段です。特に、半導体などの電子部品や医薬品、生鮮食品など、高付加価値で時間に敏感な貨物の輸送に向いています。
海上輸送との違い
航空輸送の対義語は、海上輸送です。実は、ほとんどの貨物は、海上輸送されています。航空輸送は、その中のほんの一部、特定の品目や緊急性が高いときにのみに利用します。貿易取引の中心は、海上輸送であり、航空輸送はそれを補完するものです。
なぜか? それは、航空輸送と海上輸送の違いでわかります。
- 航空輸送の違い
- コストの違い
航空輸送の所要時間
航空輸送は、特定の地点までを短時間かつ、低衝撃で輸送できるのが最大の特徴です。
例えば、日本からアメリカへの輸送は、航空輸送と海上輸送で次の違いがあります。
- 航空輸送:日本→米国西海岸まで約1日
- 海上輸送:日本→米国西海岸まで約10日
コストの違い
コスト感も全く違います。品目や輸送区間によっても違いますが、海上輸送の10倍ほどの価格さがあります。海上輸送との費用感の違いは、世界各国でも同じです。
- 航空輸送:1kg当たり2,000円~
- 海上輸送:1kg当たり200円~

貿易の中心的な輸送方法は海上輸送です!非常に急ぎの貨物であり、高単価の製品を輸送する場合は、航空輸送の方が適しています。
航空輸送のメリット・デメリット
航空輸送のメリット、デメリットは、次の通りです。
- スピーディーな輸送
- 高い安全性
- 柔軟な対応ができる。
メリット
1.スピーディーな輸送
- 国際間の輸送が1~2日で完了する。
- 在庫の最小化ができる(高頻度輸送を実現)
- 商品のライフサイクルが短い製品に最適
2.高い安全性
- 振動や衝撃が少ない
- 盗難リスクが低い
- 貨物追跡が容易
- 海賊リスクがない。
- 料金が明朗会計

海上輸送と比較して、航空輸送は、輸送料金に透明性があります。海上輸送特有の輸入港における意味不明な費用も請求されないです。
3.柔軟な対応ができる。
- 急な出荷にも対応できる。
- 小口貨物の輸送に適している
- 世界中の主要都市へ高速に輸送
例えば、在庫が欠品し、今すぐ輸送しないと生産工場が止まるなどの緊急性が高い場合でも対応ができます。
デメリット
航空輸送のデメリットは、海上輸送と比較して、圧倒的に料金が高いことです。
- 高コスト
- 積載制限
- 環境負荷
- 温度&気圧の影響を受ける。
1.高コスト
- 海上輸送の約10倍程のコストがかかる。
- 燃油サーチャージの変動が大きい
- 重量貨物の輸送には不向きである。
2.積載制限
- 容積・重量に制限あり(一般的なパレットで最大6,800kg程度)
- 危険物の搭載制限が厳しい(海上輸送ではOKでも)
- 天候による運航への影響
- 荷物を意図的におろされる可能性あり
3.環境負荷
- CO2排出量が多い
- SDGsの観点から課題あり
4.温度・気圧の影響がある。
航空輸送輸送には、海上輸送にはない外気圧による影響があります。ご存じの通り、高度があがる程、気圧と気温が下がってきます。上空の一般貨物室の内部温度は、マイナス気温になることが前提です。
- 高度10,000mでの気圧:地上の約1/4
- 貨物室の温度:-20℃~-40℃
- 温度管理が必要な貨物には専用のコンテナを使用
これらの条件を考慮し、以下の対策が必要です。
- 適切な梱包材の選択
- 気圧変化に対する緩衝材の使用
- 必要に応じた温度ロガーの設置
関連情報:航空輸送とインコタームズ(貿易条件)の関係
航空輸送における貿易条件(インコタームズ)は、次の3つが使われることが多いです。
- FCA (Free Carrier)
- CPT (Carriage Paid To)
- CIP (Carriage and Insurance Paid To)
詳細は、インコタームズガイドをご覧ください。
以上が国際航空輸送の基本的な知識です。ここからは、実際に航空輸送で輸出や輸入する場合の手順や注意点を説明していきます。
輸出の手順と注意点
海外に航空輸送(輸出)する場合は、いくつかの事前準備が必要です。あなたが輸出者だとして、海外にいる相手が知りたいことは….
- いくらで輸送してもらえるのか?
- 出荷書類は用意できるのか?
- 法的な規制対象品ではないのか?
- 航空輸送できる物なのか?
などです。輸出者であるあなたは、海外の取引相手に対して、上記に対する答えを提示できるように準備します。事前準備には、次の項目があります。
- 輸出規制品目の該非判定(外為法)
- 輸送規制の確認(関税法)
- 輸送費の見積依頼
- 取引条件の取り決め
- 必要書類を作成する。
- 輸出通関
1及び2.事前準備:輸出規制品目の該非判定
まず、日本側で輸出許可を受けらるのか?の部分で確認が必要です。日本側の輸出規制は、大きく分けて次の2つがあります。
外為法は、経済産業省、輸出規制品目は税関のサイトで確認ができます。特に武器開発につながる部品、機械類は、幅広く規制の対象である為、注意しましょう!
- 安全保障貿易管理令による規制確認
- キャッチオール規制の対象有無
- 輸出許可証の要否確認
3.事前準備:輸送費の見積依頼(フォワーダーの選び方)
海外の買い手に対しては、商品代金の他、輸送価格を含めた価格を提示します。この輸送代金を求める上で関係するのがフォワーダーです。
ところで、航空輸送と聞くと、JALやANAなどの航空会社の名前が思い浮かびますね!ですが、国際輸送の場合は、それらの会社よりもフォワーダーとのやり取りが多いです。一般的な荷主は、直接、航空会社とやり取りすることは少なく、フォワーダーと契約します。
フォワーダーは、JALやANA等の航空会社(キャリア)と契約し、輸送スペースを卸販売します。一見するとフォワーダーが加わる分、輸送料金が高くなると感じやすいです。しかし、実際は、逆です。
フォワーダーは、一般荷主では得られない輸送価格(卸)で輸送スペースを確保してるため、荷主が航空会社と直接契約するよりも安いです。よって、一般的な荷主の場合は、航空輸送をする場合はフォワーダーに依頼した方がよいと覚えておきましょう!
フォワーダーにも航空輸送に強い所、海上輸送の中国路線に強い所など、そろぞれに特徴があります。航空輸送の場合は、最低限、航空輸送に強いフォワーダーを選ぶべきです。フォワーダーを選ぶ選定基準は次の通りです。
色々な評価項目がありますが、最後は人と人です。直接の担当者の相性や、その物の実力などにより、フォワーダーへの評価が変わります。
- 航空輸送に強いフォワーダー
- 創業年数
- 財務状況
- ISO等の認証取得状況
- IATA公認代理店資格
- 24時間対応の可否
- 緊急時の連絡体制
- トラッキングシステム
- 担当者との相性が良い。
- 危険物取扱の実績
- 特殊貨物の取扱実績
- 業界団体への加盟状況
- 料金の透明性
- ドアツードアの対応可否
- 通関業務の取り扱い
- 書類作成支援
見積で必要な情報
フォワーダーから輸送価格の見積を受けるときは、最低限、下記の情報を揃えましょう。
- 商品名(COMMODITY)
- 貨物の詳細(寸法、重量、個数)
- 希望納期
- ピックアップ場所(貨物の引き取り場所)
- 仕向地(輸出先)
- 特殊取扱の要否(温度管理等)
- 荷姿
- インコタームズ(決まっている場合)
4.事前準備:取引条件の確認
次に海外の取引相手と取引条件について確認をします。
- インコタームズの取り決め
- 支払条件(L/C、T/T等)
- 納期・配送条件の確認
1.最適なインコタームズを選定
インコタームズは、海外貿易の基本です。採用するインコタームズにより、あなたの支払う費用や担う義務の範囲が変わります。相手側としっかりと交渉し、取引に最適なインコタームズを決めます。
もし、適切なインコタームズがわからない場合は、フォワーダーに相談しましょう!
2.支払い条件
支払い条件とは、商品代金を支払うタイミング、支払う回数、支払う額を取り決めることです。
例えば、あなたが輸出者の立場(お金を受け取る側)なら、売買契約書に合意した時点で50%の代金を受け取り、出荷したら残りの50%を受け取るなどです。支払うタイミング、金額等は当事者間で自由に取り決められます。

一般的なのはT/T決済(銀行振り込み)です。一回の輸送で200万円を超える場合は、銀行を介したL/C決済を取り入れることが多いです。
3.クレーム基準、納期や配送時期
どのような商品を不具合とみなすのか?
この基準を決めるのがクレーム基準です。また、入金確認後、何日以内に出荷を完了させる。仮に完了させない場合、又は遅延したい場合は○○%の損害賠償を支払うなどの条件なども重要です。
最後に全ての条件を盛り込んだ売買契約書を作成します。売買契約書、出荷書類(インボイス等)は、「DEXTRE」と呼ばるサービスで管理ができます。[/toggle1]
5.必要な書類を作成する&受け取る
売買契約書への署名が終わったら取引を進めていきます。取引の際、必要となる書類は、次の通りです。書類を準備してフォワーダーや海外の取引相手に送ります。
- インボイス
- パッキングリスト
- AIRWAY BILL(フォワーダーが発行)
- 保険証券
- 出荷指図書
インボイス作成のポイント
インボイスは出荷商品の価格情報を示す書類です。
- 正確な品名記載(一般的な商品名)
- HSコードの記載
- 単価・総額の明記
- 原産地の記載
- インコタームズの明記
- 支払条件の記載
パッキングリスト
パッキングリストは、出荷商品の梱包状況を説明する書類です。
- 荷姿ごとの内容物
- 各梱包の寸法・重量
- 梱包材質の記載
- 数量・単位の明記
これらの書類は、同じくDEXTREで作成できます。又は、エクセルのテンプレートで作成している所もあります。
出荷指図書
フォワーダーに対して正式に航空輸送を依頼する時に使用する書類です。フォワーダーは、この書類を受け取ると、輸送スペースの予約や出荷関連書類(AIR WAYBILL)を作成します。
その後、フォワーダーから貨物を入庫する場所(保税倉庫)に関する情報が伝えられるので、指定日迄に輸出梱包済みの商品を発送します。この後は、フォワーダー側が輸出通関手続き等を進めます。
参考情報:輸出通関手続き
フォワーダー(通関業の許可持つ)が税関に対して、荷主の代理人として輸出申告をし、税関から輸出許可を取得します。輸出許可は、貨物を積載する為の期限(カット日)までに必要です。この期限を過ぎると、貨物は積載できず、次の便に回されます。(納期遅延発生)輸出通関で必要な書類は次の通りです。
- インボイス
- パッキングリスト
- AIRWAY BILL
- 保険証券
- 委任状(初回のみ)
- 非該当証明書(必要な場合=外為法関連)
- 商品を説明する資料
参考情報:航空貨物用梱包やラベル基準
国際航空輸送に耐えられるよう、航空貨物用の梱包方法があります。その他、輸送品目によっては専用のラベル基準もあるため注意しましょう!
外装梱包の例 |
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衝撃緩衝材の例 |
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防水や防湿対策 |
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ラベリング要件 |
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取り扱い注意表示 |
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危険物関連表記 |
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航空輸送の輸入の流れ
次に航空輸送の輸入の流れを説明します。輸入は輸出よりも準備することが少ないです。基本は、日本側の通関等に関する確認が中心です。なお、航空輸送の輸入の場合は、売り手が国際輸送の手配までをしてくれることが多いです。よって、輸入者側は、空港に貨物が到着した後の通関手配のみを行います。
事前に確認するポイント
日本に航空輸送で貨物を輸入する際は、次の3点を確認します。
- 規制の有無
- コスト計算・関税率(HSコード)
- 輸入スケジュール
1.規制の有無
まずは、輸入予定の商品のHSコードを特定します。HSコードとは、およそ10000の品目と数字を一対にした9桁の数字です。(日本の場合)貿易の世界では、このHSコードに規制の有無、関税率などを定義しているため、非常に重要です。
ということで、最初に行うべきことは、輸入する商品のHSコードの特定です。特定方法はいくつか存在します。最も簡単な方法は、WEBタリフ(実行関税率表)。通関業者やフォワーダー等に依頼をして調べてもらう方法です。
その他、税関の事前教示制度を活用することで、輸入商品のHSコードを特定できます。HSコードの特定が終わったら、税関の実行関税率表を使い、輸入禁止品、輸入規制品、ライセンスの有無、関税率などを調べます。
- HSコードの確認
- 輸入禁止品目
- 輸入ライセンスの有無
- 検疫・食品衛生法等の規制
- 安全規格・技術基準の有無
- 関税減免の可否
例えば、食品関係であれば、関税率の他、消費税率8%の輸入税がかかります。また、他法令コードFDを確認(実行関税率表に記載されている)できるため、食品衛生法で規制されていると判断できます。
2.コスト試算
輸入規制や関税率表がわかったら、コスト計算をしてみましょう。このコストは、ランディングコストや輸入原価とも表現します。(含むべき定義は人それぞれです)
輸入原価=商品代金+国際輸送費+関税等の諸税+通関+国内配送代
上記の合計が輸入原価です。あとは、この原価に対してご自身のマージンをのせて、日本国内に販売をします。
- 輸入税=関税+消費税(食品は8%)の合計
- 関税額の計算方式=商品の購入代金+航空代金+保険代金の合計額
- 消費税額の計算式=(商品代金+関税額)×1.1又は1.08
3.輸入スケジュール
航空貨物の輸入スケジュールは非常に早いです。早ければ、貨物到着後、数時間(約半日)で輸入許可&貨物が出発することが多いです。この航空輸送よりもさらに速度を速める場合には、航空機に搭乗して貨物を輸送するハンドキャリーが最速です。
必要書類の準備
通関で必要な書類は、次の通りです。
- インボイス(Commercial Invoice)
- パッキングリスト
- AWB(航空運送状)
- 原産地証明書(必要な場合)
- 保険証券
- 商品特性による追加書類
- その他、検疫関連の書類(必要な場合)
通関(輸入申告)
上記の書類が揃ったら、通関業者又はフォワーダーに依頼をして、税関に対して輸入申告尾してもらいます。航空輸送の通関は非常に迅速です。約半日で許可になること多いです。荷主は、必要な書類を取りそろえるだけで輸入通関を完了できます。
通関(イレギュラー)
申告の結果、税関検査や追加で必要な書類等を要求されることがあります。非常によくあるのは、規制の有無を確認せず、そもそも輸入資格を満たせない状況で貨物を輸送してくるパターンです。(例:美容関連品など)
結果的に輸入できない場合は、積み戻し又は全量破棄の扱いとなり、全て輸入者の責任で処理する義務があります。また、航空輸送の保税倉庫は、フリータイムが短く、遅延すると、高い延滞料がかかる点も要注意です。
航空輸送は、全体的に全てのプロセスが高速化されています。それにより、荷主側でも必要な対応を迅速に行うよう要求されます。倉庫の保管料金が高い理由も迅速さが求められていることを意味しています。よって、何らかの理由で通関が遅れると、その分、費用負担が高額になることに留意します。
輸入許可後の配送
輸入許可後の国内配送は、別称「ラストワンマイル」とも言います。主な配送手段は、次の2つです。
- チャーター便
- 混載便
違いは、時間指定の有無、長尺物の輸送可否です。チャーター便は、一社の荷主専用で輸送するため、時間指定や長尺物の輸送が可能です。一方、混載便は、他の荷主との合積みになるため、時間指定はAM又はPMのみ、長尺物は輸送不可です。
以上が航空輸送における輸入取引の説明です。輸出と輸入は似ている部分が多いです。ですが、国際輸送の部分での主体性が全く違います。輸出の方がフォワーダーの選定等、より多くの作業が必要です。
まとめ
- 輸送スケジュールを余裕を持って設定する。
- 必要書類の早期準備と確認する。
- 規制・禁止品目の事前チェック
- 適切なフォワーダーの選定する。
- 見積りは複数社から取得する。
- 隠れコストまで含めた総額の把握
- 為替変動や燃油サーチャージの考慮
- 保険の適切な付保
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