ショベルカーの国際輸送(輸出)
建設機械であるショベルカーは、海外需要の高まりとともに日本からの輸出案件が増加しています。特に、中古ショベルカーは品質の高さと価格のバランスから、アジア・アフリカ・中南米諸国を中心に高い需要があります。これらの地域では、日本製の建設機械に対する信頼が厚く、耐久性や燃費の良さなどが重視されます。
しかし、一般貨物とは異なり、ショベルカーのような大型・重量物の国際輸送には、特殊な準備と実務対応が必要です。輸送の過程では、港湾施設の設備状況や現地インフラ、通関制度の違いなど、さまざまなハードルが存在します。本記事では、ショベルカーの輸出に際して押さえるべきポイントを、実務者目線で詳しく解説し、安全かつ効率的な輸送を実現するためのヒントを提供します。
現地ニーズと機種選定の確認
まず第一に重要なのは、輸出先のニーズに合った機種を選定することです。国や地域によって必要とされるショベルカーのスペックは異なります。
例えば、新興国ではメンテナンスが簡易なモデルが重宝される一方で、先進国では環境規制に準拠した最新モデルが求められる傾向があります。排ガス規制、操作方式(ISO/JISレバー)、サイズ、燃料種別などを事前に確認することで、トラブルを防げます。
また、建設インフラの状況によっては、小型機が重宝される場合もあります。河川整備、農業用途、都市部の道路工事など、使用目的に応じて仕様を見極めることが重要です。顧客としっかり情報をすり合わせ、仕様を明確にしましょう。
輸出管理制度とデュアルユース規制の確認
ショベルカーを輸出する際には、安全保障貿易管理制度(安保管理)の遵守が重要です。特に、軍事転用の可能性がある「デュアルユース品」に該当するかどうかの確認が必要です。ショベルカーは通常、貨物用途として扱われますが、機種や装備によっては「輸出貿易管理令別表第1」や「外国為替令」に基づく規制対象となる場合があります。輸出前には、経済産業省のガイドラインを参照し、該当する可能性がある場合は「該非判定書」を取得することが求められます。
また、仕向け国がリスト規制国やキャッチオール規制対象国である場合には、輸出許可が必要となることもあります。輸出管理に関する不備は重大な法的リスクにつながるため、入念に確認するようにしましょう!
代表的なHSコードと関税率の目安
ショベルカーのHSコードは一般的に「8429.52」に分類されますが、機種や仕様によって若干異なる場合があります。例えば、クローラー型ショベルとホイール型ショベルではコードが変わる可能性もあるため、事前教示制度の活用が推奨されます。
関税率については、仕向け国により大きく異なります。東南アジア諸国(ASEAN)では日本とのEPA(経済連携協定)が発効している国が多く、適切な原産地証明書を添付することで、関税がゼロまたは大幅に軽減される場合があります。一方で、中東・アフリカ・中南米では関税率が10〜20%に設定されている国が多いです。

事前に相手国側の関税率を確認しましょう!相手国側の関税率は、ワールドタリフを使うことで調べられます。
輸送コストと市場データの把握
輸送コストは、出荷地・機種サイズ・輸送手段(コンテナ・RORO)・距離などにより異なります。目安として、日本から東南アジア向けのRORO輸送では、1台あたり20万〜30万円程度のコストがかかることがあります。これに加えて、国内運送費、港湾費用、書類作成手数料、保険料などが別途発生します。
近年は中古建機の需要が高まっており、財務省貿易統計によると、ショベルカーを含む建設機械の中古輸出台数は年々増加傾向にあります。2022年にはおよそ3万台以上が海外に輸出されており、そのうちASEAN向けが過半数を占めています。
排ガス規制・再組立てに関する注意点
輸出先によっては、排ガス規制に対応した証明書(排ガス試験成績書やメーカー発行の排ガス適合証明書)が求められるケースがあります。これがない場合、通関時に輸入許可が下りない、もしくは追加の検査を要する可能性があるため注意が必要です。
また、コンテナ輸送時に分解して送る場合、現地での再組立てに専門的な知識と工具が必要となることがあります。自社で対応できない場合は、技術者を現地に派遣するか、現地ディーラーとの連携体制を構築しておくことが望ましいです。輸出先によっては組立工程も検査対象となることがあるため、写真や手順書を整備しておくとスムーズです。
まとめ(更新後)
ショベルカーの国際輸送(輸出)では、以下の点を押さえることで、実務上のリスクを大きく軽減できます。
- 輸出先ニーズに合った機種・仕様の確認
- コンテナ・RORO・フラットラック等、最適な輸送手段の選定
- 書類準備と通関要件の事前確認
- 検疫・洗浄対応の徹底
- 輸送保険の加入と信頼性ある業者の活用
- 荷役設備・保管環境・検品体制の整備
- 安全保障輸出管理制度やデュアルユース規制への対応
- HSコード・関税率・EPAなどの関税実務の理解
- 排ガス証明書の取得・現地再組立ての体制確認
- 輸送費と市場データに基づいたコスト見積もりと戦略
これらを一つずつ確実に対応することで、ショベルカーの国際輸送は安全かつ効率的に行うことが可能になります。中長期的な視点で輸出プロセスを最適化し、安定した海外取引を実現する体制づくりが鍵です。