近年、中古の電気自動車(EV)の需要が世界的に高まっています。特に発展途上国や環境規制の厳しい国々では、コストを抑えつつEVを導入したいというニーズが増加しています。
しかし、中古EVの輸送は、通常の自動車(内燃機関車)と比べて輸送規制が厳しく、輸送を断られることも多いです。
この記事では、中古EVを輸送する際の課題と対策を解説していきます。
中古EVの国際輸送
中古EVの輸送で注意すべきポイント
中古EVの輸送には、主に以下の4つのポイントがあります。
- バッテリー管理
- 海上輸送の制約
- 輸出入規制
- コストの最適化
EVのバッテリーはリチウムイオン電池であり、発火のリスクがあるため、輸送時には厳しい管理が必要です。また、海上輸送ではEVの取り扱いを制限する船会社が増えており、選択肢が限られることがあります。さらに、輸出入に関する規制は国ごとに異なり、適切な書類を準備しなければ輸送がスムーズに進みません。
輸送前の準備
中古EVを輸送する前に、まず車両の状態を確認し、必要な書類を揃えましょう。
車両の選定とバッテリー診断
輸送するEVは、バッテリーの状態が良好であることが前提です。劣化したバッテリーを搭載した車両は輸送を拒否されることがあるため注意します。なお、バッテリーの充電率(SOC)は30%以下に調整することが求めらます。

発火リスクを下げるために船会社から要求されることが一般的です
必要な書類の準備
中古EVの輸送には、通常の自動車輸送よりも多くの書類が必要です。
例えば、米国ではEPA(環境保護庁)の承認証明や輸入車適合証明書が求められ、EUではCE認証やバッテリーリサイクル証明が必要になる場合があります。東南アジアでは国ごとに規制が異なり、輸入ライセンスの取得が求められるケースもあります。主なものとしては、
- 輸出許可証
- インボイス(Invoice)
- パッキングリスト(Packing List)
- バッテリー安全証明書(Battery Safety Certificate)
- SOC証明書(充電率30%以下であることを示す書類) が挙げられます。
輸出入先の国によっては、追加の環境基準をクリアするための証明書やバッテリーのリサイクル計画書(ドイツ、フランス)が求められることもあります。事前に輸入国の規制を調査し、必要書類を揃えておきましょう。
海上輸送の選択肢
中古EVの輸送方法には、RoRo船(Roll-on/Roll-off)とコンテナ輸送の2つがあります。それぞれのメリットとデメリットを理解し、最適な方法を選びましょう。
RoRo船輸送の特徴
RoRo船は、車両をそのまま船に積み込む方法です。EV輸送にも使用していますが、船会社によってはバッテリーを搭載したEVを制限していることがあります。特に、劣化したバッテリーを搭載する車両、あるいは、安全基準を満たしていない車両は断られることが多いです。

RoRo船は、車両が密集しているため、相対的に火災リスクが懸念されやすいです。そのため、消火設備の有無、緊急時の対応が重要です。
例えば、東南アジア向けの輸送では、一般的には、RoRo船がコスト効率の良い選択肢となりますが、欧州向けでは規制が厳しく、コンテナ輸送の方が適している場合があります。
コンテナ輸送の特徴
コンテナ輸送では、EVをコンテナに収めて輸送します。密閉空間であるため、バッテリーの管理がより厳しくなることが特徴です。当然、SOC(充電率)が適切でないと、輸送を断られることもあります。

コンテナ内での固定方法や通気対策も重要です。
輸出・輸入時の通関手続き
EVの輸出入には、国ごとに異なる規制が適用されます。事前に各国の規制を確認し、通関手続きをスムーズに進めるための準備を行いましょう。
輸出通関時の注意点
輸出時には、車両の情報とバッテリーの安全性に関する書類を提出する必要があります。特に、
- 車両番号(VIN)の確認
- バッテリーの型式と仕様書の提出
- リチウムイオン電池に関する安全基準の適合証明 が求められます。
輸入通関時の注意点
輸入国ごとに環境規制が異なります。
例えば、EUではCE認証が必要となる場合があり、バッテリーの安全性やエネルギー効率に関する適合性が求められます。
米国ではEPA(環境保護庁)の基準を満たすことが必須であり、特に排出ガスやエネルギー消費に関する詳細なデータを提供する必要があります。
また、カナダでは輸入前に環境評価の申請が必要になるケースがあります。さらに、一部の国ではバッテリーのリサイクル計画が求められるため、事前にリサイクル認可を取得し、適切な処理計画を提出することが求められることもあります。
コストを抑える方法
EVの輸送コストは、通常の自動車よりも10〜30%程度高くなる傾向があります。特に、バッテリー管理や輸送時の特別な安全対策が求められるため、追加費用が発生しやすいです。
例えば、RoRo船を利用する場合は通常の車両よりも輸送料金が約15%増し、コンテナ輸送の場合は特殊な梱包やSOC調整などでさらに費用がかかるケースがあります。以下の対策を講じることで、コストを抑えながら安全に輸送できます。
- 適切な海運会社を選ぶ EVの輸送を制限していない海運会社を選び、料金を比較しましょう。
- バッテリー管理を徹底する SOC(充電率)を適切に管理し、輸送条件をクリアすることで、追加料金を防ぎます。
- まとめ輸送を活用する 複数台をまとめて輸送することで、1台あたりのコストを削減できます。
- 保険の選択肢を見直す 火災リスクに備えた保険に加入し、補償内容を確認しておくことが重要です。
参考情報:日産のリーフならOK?
日産のリーフなら例外的に簡易的な手続きで国際輸送できるのでしょうか? 答えはノーです。車種やブランドにより取扱い条件が緩和されることは基本的にありません。船会社は、中古のリチウムイオン電池の輸送について全体的にリスクがあると評価しているのですね!
まとめ
- 中古EVの輸送には、バッテリー管理と輸出入規制の確認が不可欠です。
- RoRo船とコンテナ輸送の選択肢があり、それぞれのメリット・デメリットを理解する必要があります。
- 適切な書類を事前に準備し、輸出入の通関手続きをスムーズに進めましょう。
- 輸送コストを抑えるために、海運会社の選定やまとめ輸送を活用することが重要
中古EVの輸送は、通常の自動車と比べて複雑なプロセスを伴いますが、適切な準備と計画を行えば、安全かつスムーズに輸送することが可能です。