米国経由インド向け三国間貿易
三国間貿易(トライアングルトレード)は、商流と物流が異なるため誤解が多い取引形態です。特に「米国経由でインド向けに輸出するケース」では、米国通関の有無やSwitch B/Lの使い方など、実務的な判断が必要です。
この記事では、米国を経由させたインド輸出の流れを、物流・書類・契約の観点から整理します。
三国間貿易の基本構造
三国間は、書類の流れ(商流)と貨物の流れ(物流)があります。
- 定義:売主・中継国・最終買主の3者が関与する取引です。
- 商流:インボイスや決済の流れがあります。
- 物流:貨物の実際の動きです。日本から米国を経由し、最終的にインドへ到着。

商流と物流が一致しないため、書類管理や契約条件の確認が重要です。
物流の流れ(米国経由インド)
1.日本から米国へ輸出
米国での扱いは以下の選択肢があります。
- Immediate Transit(IT)制度:入港港から直接、他港や空港に輸送する制度。
- FTZ(Foreign Trade Zone)活用:米国内に一旦搬入し、通関を保留したまま再輸出する仕組み。
- 通常輸入通関→再輸出:検品や仕分けが必要な場合に選びます。
原則として米国は「純粋なトランジットは不可」であり、制度を利用しない限り通関が必要です。
2.米国からインドへ輸出
- インド側で輸入通関する。
- 経由地が米国であるため、インド税関からBLコピー、Routing証明、契約書写しなど追加書類を求められることが多いです。
- 商流に不自然な点があるとValuation(価格調査)やRelated Party取引疑義による長期審査が行われるリスクもある。特に二段階商流ではTransfer Pricing(移転価格)に近い疑義を持たれる場合があり、契約価格の妥当性を示す資料(メーカー見積、独立価格証明など)を準備しておくと安心です。
書類の流れ
インボイス
- 日本→米国向けインボイス(一次商流)
- 米国→インド向けインボイス(二次商流)
- 複数インボイス(一次・二次)発行時は、整合性を管理することが重要です。AML(マネーロンダリング防止)の観点から銀行チェックが入るため、契約書・発注書など裏付け資料と一致させる必要があります。
船荷証券(B/L)
- Switch B/Lを利用するケースが多い。
- 実務的には、フォワーダー(NVOCC)経由での手配が現実的であり、船会社本船では対応が難しい場合があります。
- 銀行によってはSwitch B/Lのコピー提出を求めるケースもあるため、事前に確認が必要です。
原産地証明書
- 貨物が日本産なら、日本から直接発給が必要。
- インド税関で関税優遇を受ける場合は、日印CEPA(EPA)に基づく Form AI(特定原産地証明) を取得する必要があります。
契約・決済面の注意点
L/C(信用状取引)の場合:
- 「Third Country Shipment acceptable」の条項を必ず追加すること
- Partial ShipmentやTransshipment条件を確認しましょう。
- インボイス差替えの正当性と書類整合性を厳格に管理します。
インコタームズの責任範囲を明確にする:
FOB日本港、CIFインド港など、責任範囲を明確に設定します。
保険
海上保険だけでなく、三国間特有のリスク(未払い・二重インボイス問題など)に備えて「貿易信用保険」を検討することが有効です。
その他のリスクと対策は?
米国の輸出管理規制(EAR):
米国経由の時点でEAR再輸出規制の対象となる可能性がある。
該非判定(ECCN分類)やリストチェックを必ず実施し、規制品目に該当しないか確認が必要。
銀行チェック
AML(マネーロンダリング防止)の観点から三国間取引は注視されやすい。
Switch B/Lの誤処理
書類不整合で決済不可になる恐れ。
米国輸送実務
日本船社主配船 → 米国内Feeder振替 → インド向け本船、と複数社に跨るのが一般的。その際、Switch B/LはNVOCC利用が現実的。
インド通関
追加書類要求やValuation審査で輸入が長期化するリスク。特に移転価格に関する疑義で審査が長期化する可能性がある。
実務チェックリスト
- 商流と物流を図解して整理しているか
- Switch B/Lの必要性を事前確認しているか(NVOCC利用が有利)
- L/Cに「Third Country Shipment acceptable」を明記しているか
- 一次・二次インボイスの整合性を二重チェックしているか
- 原産地証明書をどこで発行するか明確化しているか(Form AI利用含む)
- 米国通関方法(IT/FTZ/通常通関)を決定しているか(主要港対応可否も確認)
- EAR該非判定・ECCN分類を確認しているか
- 契約価格の妥当性を示す資料(メーカー見積、独立価格証明)を準備しているか
- 海上保険+貿易信用保険の活用を検討しているか
まとめ
米国経由インド向け三国間貿易は、「商流と物流の分離」が最大の特徴です。米国では原則トランジット不可であり、FTZやIT制度を活用する必要があります。一次・二次インボイスの整合性やSwitch B/L、原産地証明の精度管理に不備があると、通関や決済が滞るリスクが高まります。さらに、銀行のAMLチェックやインド税関のValuation審査など、三国間特有のリスクも想定しなければなりません。契約条件・保険範囲を明確にし、EAR規制を含め制度面の確認を徹底することが、成功する三国間取引のカギです。
要点
- 米国経由では原則トランジット不可、IT/FTZ制度利用が前提
- L/Cには「Third Country Shipment acceptable」を必須記載
- Switch B/Lはフォワーダー(NVOCC)での手配が現実的
- 一次・二次インボイスの整合性を厳格管理(AML対策)
- インドは追加書類要求・Valuation審査が頻発
- 原産地証明は日本発給が原則、CEPA利用の場合はForm AIを取得
- EAR規制を踏まえ、再輸出該非判定・ECCN分類を事前確認
- 海上保険に加え、貿易信用保険で決済リスクに備える