米国東部・南部の30以上の港湾で約4万5000人規模のストライキが勃発し、米国の海上輸送の約半分が影響を受ける事態となっています。この記事では、港湾ストライキによる影響と最小限に抑えるための対策をご紹介していきます。
港湾ストライキ対策
アメリカを始めとする諸外国では、労働者の権利を主張するストライキ(労使交渉)が活発に行われます。当然、港湾労働者(エッセンシャルワーカー)も、ストライキをするため、荷主にとっては、その動向が気になります。
直近のストライキ事例(北米)
アメリカ東部などにある30か所以上の港で働く労働者の組合は、賃上げの幅などをめぐって経営側と合意できず、1日から一斉にストライキに入りました。これらの港で取り扱う貨物の量は、全米の海上輸送のおよそ半分にのぼるとみられ、影響が懸念されます。
アメリカ東部や南部などの港で働く労働者の組合は、協定の期限となっていた9月30日までに経営側の団体との間で、賃上げの幅や自動化技術への対応などをめぐり合意に達することができなかったことから、1日から一斉にストライキに入りました。
引用元:NHK
世界各国で行われる可能性がるストライキ
ストライキは、北米に限らず、世界各国で行われています。(行われたことがある)
南アフリカ (2023年)
- 期間: 2週間
- 影響:国内最大の港であるダーバン港で貨物の滞留が発生
- 自動車産業を中心に約6億ドルの経済損失
- 農産物の輸出に深刻な影響
イギリス (2022年)
- 場所: フェリクストウ港
- 期間: 8日間
- 影響:英国最大のコンテナ港が機能停止
- 年間貨物取扱量の約48%に影響
- サプライチェーンの混乱とインフレ圧力の増大
カナダ (2020年)
- 場所: モントリオール港
- 期間: 12日間
- 影響:約10億カナダドルの経済損失
- 約20隻の船舶が他の港に迂回
- 自動車部品や食品などの供給に遅延
チリ (2019年)
- 期間: 3週間
- 影響:果物の輸出に深刻な影響(約5億ドルの損失)
- 銅の輸出にも影響(世界最大の銅生産国)
スペイン (2017年)
- 場所: バルセロナ港とビルバオ港
- 期間: 数日間
- 影響:自動車産業に大きな影響
- 1日あたり約5000万ユーロの経済損失
上記の事例からもわかるとおり、基本的に港湾ストライキは、どの国でも発生する可能性があると考えた方が良いでしょう!
ストライキが与える影響
ストライキは、港湾従事者に限らず、社会全体に対して、極めて大きな影響を与えます。
まず、荷下ろしなどが止まるため、貨物が滞留し始めます。当然、コンテナ船の入港もストップします。港の沖合に入港待ちの大型コンテナ船がずらーと並び始めます。
当然、国内に物資が届かなくなり、工場での製造が難しくなり始めます。様々な完成品も届きにくくなるため、物不足に陥り、社会全体に大きな影響がでてきます。
- 貨物の滞留、遅延
- 輸送コストの上昇
- 在庫不足(欠品)
- 代替ルートの集中
- インフレ圧力の上昇
1.貨物の滞留と遅延
港での荷役作業が停止し、船舶の積み降ろしができなくなります。貨物の滞留が発生し、サプライチェーン全体が遅延します。
2.輸送コストの上昇
代替ルートや輸送手段の利用により、輸送コストが上昇します。船会社がストライキに対応のためのサーチャージを課金する可能性があります。
例えば、Emergency Destination Charge (EDC)です。
3.在庫不足のリスク(欠品リスク)
製造業や小売業で必要な原材料や商品が届かず、在庫不足に陥るリスクがあります。
4.代替ルートへの集中
他の港や航空輸送など代替ルートに貨物が集中し、混雑が発生します。
5.インフレ圧力の上昇
物資の流れが滞ることで、社会全体のコスト上昇につながる可能性があります。
荷主が考えるべき港湾ストライキへの対策
港湾ストライキは、世界各国で発生する可能性があります。そのため、各荷主は、ストライキに対して、予め以下の対策をしておくと良いです。
- 情報収集とフォワーダーとの密な連携
- 代替ルートを確保する
- 在庫管理の最適化
- 契約条件の見直し
- 輸送のデジタル化を進める。
情報収集とフォワーダーとの密な連携
ストライキに対する効果的な対策は、情報収集にあります。そして、この情報収集でカギになるのがフォワーダーです。
例えば、米国路線なら、米国路線に強いフォワーダーを使うと、フォワーダーの現地事務所から、アメリカ側の最新の情報を得られやすいです。当然、ストライキ等の重要情報を含めて案内をしてくれる為、非常に心強いです。
フォワーダーの良し悪しは、この情報収集力と代替案の提示力だと考えます。ストライキなどのイレギュラー時にフォワーダーの真の実力が発揮されると言っても良いでしょう。
代替ルートを確保する
万が一の際、緊急的な対応ができるよう、予め、近隣の国又は空港等に輸送する代替ルートを考えておきます。
例えば、海上輸送を想定していた。しかし、ストライキが発生する見込みなので、航空輸送に切り替えるなどです。輸送費は高くなりますが、物を届けられない事態は回避できます。
また、サプライチェーンを単一の国に頼り過ぎないことも重要です。海外の販路、海外の仕入れ先等を分散させることで、ストライキを含めたリスクを小さくできます。
在庫管理の最適化しよう。
国際輸送を必要する物については「ジャストインタイム」の考え方にも柔軟性が必要です。あまりにも在庫を絞りすぎると、イレギュラー時の対応が難しくなります。
例えば、米国の場合なら、2週間ほどのストライキが続くこともあります。当然、その間を賄えるだけの在庫が必要です。在庫が無くなれば、航空輸送等、別の手段への切り替えなどが必要となり、大幅なコスト高につながります。
契約条項の見直し
海外の取引先との間で、フォースマジュール条項(不可抗力)を含む、ストライキ発生時の対応を明確にします。万が一、ストライキにより、遅延や追加コストが発生した場合は、どちらの責任とするのか?の部分が重要です。
港湾ストライキについては、インコタームズでも当事者間の協議となっている為、やはり契約書等で規定する方が良いでしょう。
輸送のデジタル化を進める
人の力で管理していた物をデジタルの力で管理する。
いわゆる、国際物流のDX化を進めましょう!これにより、貨物の現在地の把握が簡単となり、いち早く輸送の異状を把握できます。
ストライキは、世界のどこでも発生する可能性があります。ぜひ、予め対策案を考えておきましょう!
まとめ
港湾ストライキは、グローバルサプライチェーンに大きな影響を与えます。荷主企業は、ストライキに対する迅速な対応と将来的なリスクに備える体制づくりが必要です。
短期的には、代替港の活用や輸送モードの変更、在庫水準の見直しなど、即効性のある対策を講じる必要があります。特に生鮮品や医薬品など、時間的制約の大きい貨物を扱う企業は、航空輸送への切り替えも含めた柔軟な対応が不可欠です。
一方で、今回の事態を教訓として、中長期的な視点でのサプライチェーン戦略の見直しも重要です。特定の港湾や地域への依存度を下げ、生産拠点や物流ルートの分散化を図ることで、リスクへの耐性を高められます。
さらに、これらの対策にかかるコストを適切に管理し、取引先との協議を通じて負担の分散を図ることも重要な課題です。
港湾ストライキは、企業のリスク管理体制を見直す機会でもあります。この機会を活かし、より強固で柔軟な物流体制の確立していきましょう!