デジタル通関の未来
なぜ今「デジタル通関」が注目されているのか?
近年、貿易業務全体のデジタル化が急速に進んでいます。その背景には、以下の変化があります。
- 紙のインボイス・パッキングリストのやりとりに伴うミスやタイムロスの多発
- 新型コロナを契機としたリモート対応・非対面化の加速
- 海外顧客・仕入先とのやり取りスピードへの要求の高まり
- 海上輸送のリードタイムが長期化し、情報の“見える化”が重要に
- 輸出入手続きの煩雑化に伴い、正確かつ即時な情報共有の必要性が増大
このような中、税関や通関業者とのやり取りも例外ではなく、通関に関わる全てのプレイヤーが「デジタル対応」を迫られる時代になっています。もはや、紙ベースの業務ではリスクや非効率が大きくなりすぎているのです。
NACCSとは何か?仕組みと現在の運用状況
NACCS(ナックス)は、税関手続きをオンラインで行うための日本独自のシステムで、正式には「Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System(輸出入・港湾関連情報処理システム)」と呼ばれています。
このシステムは、従来アナログで処理されていた輸出入関連の情報を一元的にデジタル処理する仕組みです。以下のような手続きが、NACCSを通じて電子的に処理されています。
- 輸出入申告(申告内容の入力・審査)
- 税関検査や許可情報の連携
- 港湾・空港・運送会社とのデータ連動
- 食品、医薬品、動植物検疫など関係省庁への情報提供
現在では通関業者はもちろん、フォワーダーや一部の荷主企業もNACCSを通じてデータをやり取りしており、デジタル通関の中核を担っています。
NACCS 202Xとは?進化のポイントを解説
NACCSは数年ごとにバージョンアップを行っており、次世代版(仮称:NACCS 202X)では以下の機能強化が予定されています。
API連携の本格対応
外部の基幹システム(ERP、WMSなど)とのAPI連携を強化し、手入力の手間を大幅に削減。これにより、ヒューマンエラーの発生も抑えられ、業務効率と正確性が飛躍的に向上します。
電子添付書類の拡充
PDFや電子インボイスの添付がより柔軟になり、紙提出の削減が可能に。今後は、ブロックチェーンベースの書類照合や、AIによる内容チェック機能なども検討されています。
eFREIGHTとの統合
航空輸送における電子データ交換(e-FREIGHT)との連携で、航空貨物通関もスピードアップ。輸出入の全体的なリードタイム短縮にも貢献します。
税関・貿易規制システムとの一体化
HSコード判定、事前教示制度、輸入規制確認などとの自動連動が可能になり、申告の精度とスピードが同時に向上します。
法令・国際標準化・セキュリティの視点からも要注目
最新の法令・規制動向
2025年10月以降、日本国内では輸入申告の記載項目追加、事前確認事項の義務化など、法令上の変更が予定されています。特に越境ECや個人輸入業者にとっても無視できない動きであり、最新のコンプライアンス情報のチェックが欠かせません。
国際標準化・グローバル対応
WCO(世界税関機構)では国際的なデータモデルの標準化が進められており、今後は他国の税関システムとの相互運用性(インターオペラビリティ)が重要になります。NACCSの仕様もこれに準拠しつつあります。
セキュリティ・データプライバシー
デジタル通関の進展とともに、サイバー攻撃や情報漏洩リスクへの対策も求められています。API連携における認証・暗号化、電子添付書類のアクセス制御、改ざん防止など、企業側でもセキュリティ体制の強化が不可欠です。
荷主が知っておくべき“実務的な影響”
NACCSの高度化によって、荷主にも以下のような影響が出てきます。
- 紙書類での対応が通用しなくなる場面が増える
- 自社の基幹システムと通関業務の“連携”が必要になる
- 書類のミスや不一致が電子的に記録・追跡されやすくなる
- 通関業者に渡すデータ(品名、数量、原産地など)の精度がより重要に
- 社内の情報管理体制・教育体制の再整備が必要になる
- 外部の業者に丸投げせず、自社内でも通関知識を持つ人材の育成が求められる
- 中小企業や個人事業主にとっても、デジタル対応の有無が競争力に直結する
つまり、デジタル通関の時代では、荷主側の「データ整備力」そのものが通関スピードやコストに直結するのです。ミスが許されないデジタル環境下では、出荷前からの情報整理が成否を分けます。
今からできるデジタル通関対応チェックリスト
荷主企業が今から備えておくべき対応事項をチェックリストとしてまとめます。
インボイスやパッキングリストの電子化(Excel→CSVやPDF)
紙の帳票ではなく、電子データでの提出が求められるケースが増加中。将来的なeインボイス義務化に備え、形式の標準化を行いましょう。
HSコードの自社マスタ管理
通関業者任せにせず、自社で取扱品目のHSコードを管理・共有しておくことで、申告ミスの防止とスピード向上につながります。
製品情報(品名・型番・仕様)の統一フォーマット化
輸出書類に記載する品名や仕様が部署や案件ごとに異なると通関で混乱を招きます。社内で共通の記載ルールを整備しておくことが重要です。
NACCS連携が可能な通関業者の選定
API連携や電子書類への対応可否は業者ごとに異なります。デジタル対応の意識が高く、最新機能に柔軟な通関業者との提携を見直しましょう。
書類提出の履歴・修正履歴の記録管理
提出済書類の改訂や差し替えが必要になった際、旧ファイルの保存と修正理由の記録が重要です。将来の監査にも備える形になります。
社内システム(販売管理、WMS)とのAPI対応検討
NACCSや通関業者と直接データをやり取りできるよう、販売管理・倉庫管理などの自社システムをAPI対応可能な状態にする検討が必要です。
データ整合性を保つ社内業務フローの標準化
複数部門が関与する中で、入力ミスや情報の齟齬を防ぐには、明確な業務フローと入力手順の統一が欠かせません。
通関担当者と現場担当者の連携強化
通関に必要な正確なデータは現場から出てきます。現場と通関担当の間で「情報の意味」「記載ルール」を共有することで、ミスを防げます。
セキュリティ・データ管理体制の再確認
デジタル化によって情報の流通は加速しますが、同時に情報漏洩や改ざんリスクも高まります。アクセス制御・暗号化・ログ管理などを確認しましょう。
グローバル基準や他国通関制度の理解促進
他国の通関方式(例:ASEAN Single Window、米国ACEなど)にも目を向け、自社輸出先での通関方式に対応できる体制を整える意識が必要です。
まとめ|通関業務の未来は“荷主側の整備”が鍵を握る
これからの時代、通関業務は「通関業者任せ」では通用しません。NACCSを中心としたデジタル通関の環境では、荷主自身が提供する情報の“質”と“スピード”が重要になります。
- 通関の電子化は避けられない流れ
- APIやRPAといった新技術との連携を前提にした体制整備が求められる
- 荷主こそが“通関を止めない仕組み”を作る主体となる
- 情報のデジタル整備は、将来的にコスト削減と業務安定化につながる
- 法令改正や国際基準への準拠も求められる時代
これを機に、自社の通関業務を見直してみてはいかがでしょうか?
社内の情報共有、担当者教育、システム整備など、小さな一歩から始めることが、将来の競争力強化につながります。
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