ATAカルネとは?
一時輸出入に便利な通関制度「ATAカルネ」とは?
国際的な展示会やスポーツ大会、商談で使用する機材や製品を一時的に海外へ持ち出す際、煩雑な通関手続きを簡略化できるのが「ATAカルネ(ATA Carnet)」制度です。これは、一定期間内に再輸入することを条件に、関税や輸入税を免除できる制度で、世界の約80カ国以上で導入されています。
ATAカルネの名称は、「一時通関証明書」を意味するフランス語と英語の頭文字から来ており、国際商業会議所(ICC)および世界税関機構(WCO)が管理する制度です。事前にカルネを取得することで、現地の通関時に関税支払いの必要がなく、スムーズな出入国が可能となります。
ATAカルネが使えるケースと対象貨物
ATAカルネは、以下のような一時輸出入に該当するケースで利用できます。
- 海外展示会への出展物品(機械、模型、販促資材など)
- 映像・撮影機材、音響・照明機器などの業務用機材
- スポーツ競技用具、音楽・舞台用の楽器や衣装
- 学会発表の資料や実験装置など研究関連物品
- 取引先に提示する非売品の製品サンプル
ただし、これらはすべて「一時的に輸出し、再輸入することが前提」です。消耗品、販売予定の商品、すぐに消費される食品や医薬品などは対象外です。また、植物、動物、爆発物などの危険物も通常は対象外です。特に医薬品や衛生用品、化粧品については、たとえ一時持ち込み目的であっても、一部の国ではカルネが認められていないこともあるため、事前の確認が必要です。
加えて、商談用の製品サンプルでも、たとえばインドやブラジルなど一部の国では商業性があるものとしてカルネ利用が制限される例もあります。該当国の税関方針により運用が異なるため、事前調査が欠かせません。
ATAカルネの取得方法と必要書類
日本でATAカルネを発行するには、日本商工会議所を通じての申請が必要です。申請時には以下の書類が必要となります。
- ATAカルネ申請書(所定フォーム)
- 物品リスト(品名、数量、型番、価格等を明記)
- 保証金または保険契約に関する書類
- 出展証明書(展示会などに出展することを証明する書類)
発行までには通常3~7営業日程度かかるため、余裕を持った申請が望ましいです。保証金は物品価格の30~100%程度が目安で、保険料の場合は数千円~数万円で済む場合もあります。
オンライン申請が可能であり、事前に発行見積を依頼することでコストを把握できます。また、申請は全国の主要商工会議所で対応しており、書類の不備がない限りスムーズな取得が可能です。
トラブル時の対応と注意点
ATAカルネ制度を利用する際に注意すべきなのが、「全品の持ち帰り義務」です。
例えば、展示会後に物品を紛失、盗難、破損等により現地で廃棄・譲渡せざるを得ない場合、輸入国の税関が課税対象と判断することがあります。
このようなケースでは、保証団体(日本では商工会議所と引受保険会社)が立て替え払いを行うことで、税関への支払いを一時的に肩代わりします。ただし、その後、荷主に対して保証金の返還請求が発生するため、損害が実質的に荷主負担になる場合があります。
また、カルネ自体を紛失した場合は、すぐに商工会議所や税関に報告し、「サブスティテュート・カルネ」と呼ばれる代替証明書の発行手続きを行う必要があります。
さらに、再輸入期限(通常は1年以内)を超えると、カルネが無効となり、税関での課税対象になります。再輸出前には、現地の税関で出国記録(ストランス通関)を忘れず取得する必要があります。
ATAカルネの加盟国とその範囲
2025年時点でのATAカルネ加盟国は約80カ国に及び、ヨーロッパ全域、北米、アジア、中東、オセアニアの主要経済国が含まれています。
代表的な加盟国:
- アメリカ合衆国
- カナダ
- EU諸国(ドイツ、フランス、イタリアなど)
- イギリス
- 中国
- 韓国
- シンガポール
- オーストラリア
- アラブ首長国連邦
- トルコ
一方で、南米やアフリカの一部地域では未加盟国もあり、利用できないケースもあるため、目的国のカルネ対応状況を事前に確認することが必須です。国際商業会議所のATAカルネ公式サイトにて最新情報を確認できます。
まとめ:ATAカルネは国際ビジネスの強力な支援ツール
ATAカルネは、展示会や一時輸送に関わる企業・個人にとって、時間とコストを節約する非常に有効な制度です。しかし、その利用には条件があり、対象外物品やカルネが使えない国も存在するため、十分な事前準備と確認が不可欠です。
申請手続きやトラブル対応、再輸入期限の管理までを含め、制度を正しく活用することで、国境を越えたビジネス展開をより円滑に進めることができます。
記事のポイントまとめ
- ATAカルネは一時輸出入時の関税免除を可能にする国際制度
- 食品、医薬品、販売目的の物品などは対象外
- 申請時には書類や保証金・保険料が必要。紛失やトラブル時は補償制度あり
- 加盟国でも一部制限あり。最新状況を要確認
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