熱処理証明
輸出入の現場では「熱処理証明」という言葉がよく登場します。
しかし、その意味は対象によって大きく異なります。木材梱包材の植物検疫のために必要な場合もあれば、金属製品の品質保証として求められる場合もあります。誤解すると通関や納品の現場で貨物が止まるリスクがあるため気を付けましょう!
熱処理証明とは
熱処理証明とは「貨物や梱包材が規定の熱処理を受けたことを証明する書類」です。国際物流で求められるケースは大きく2つに分けられます。
- 木材梱包材(植物検疫のため)
- 金属製品(品質保証のため)
木材梱包材における熱処理証明(ISPM No.15)
国際基準のISPM No.15では、木製パレットや木箱を輸出に使う場合、56℃以上で30分以上の加熱処理などが求められます。処理を受けた梱包材には「焼き印(マーク)」が付けられます。このマークこそが国際基準上の正式な証明であり、原則として「証明書(Certificate of Heat Treatment)」は必須ではありません。ただし、一部の国や取引先では補助的に証明書の提出を求められる場合があります。
マークの意味
マークには「認定国コード、事業者コード、処理種別(HTなど)」が明記されます。輸入通関の現場では、植物防疫所(農林水産省管轄)が確認を行い、不備があれば貨物差し止めや現地での廃棄命令につながります。税関は輸入許可を出す立場ですが、植物防疫所が不許可判断をすれば輸入はできません。両者の役割を区別して理解する必要があります。
国ごとの追加規制
国ごとに追加規制があります。
例えばオーストラリアやニュージーランドでは独自の検疫条件を課しており、中国では過去に「再輸入貨物で未処理梱包材が混入して返送命令」といった事例が多発しました。輸出先の国別規則を事前に調べることが不可欠です。
金属製品における熱処理証明
鉄鋼材や機械部品などの輸出入では、品質保証のために熱処理証明(Heat Treatment Certificate)が求められることがあります。この証明書は、製造工程で規定通りの熱処理(焼入れ、焼戻し、焼なましなど)が行われたことを示すものです。
通常は製造工場の品質保証部門が発行し、契約条件によっては第三者検査機関の証明が必要となる場合もあります。
証明書には、処理温度、保持時間、冷却方式、ロット番号といった情報が必須項目として記載されます。場合によっては材質証明書(Mill Certificate)とセットで提出を要求されることがあります。

特に自動車部品や航空関連部品では必須条件となることが多いです。
熱処理証明の取得方法
- 木材梱包材:認定を受けた梱包業者が熱処理を行い、マークを施す。必要に応じて証明書を補助的に発行。
- 金属製品:製造工場の品質保証部門が発行。契約条件によっては第三者機関の検査証明が追加される場合もある。
実務での注意点とトラブル事例
- 木材梱包材:焼印マーク不備により輸入地で貨物が廃棄・返送されるケース。
- 金属製品:証明の不備で契約不履行、納品不可となったケース。
- 追加費用:フォワーダー見積に「熱処理証明料」が計上される場合がある。
契約・規制の確認ポイント
- 木材梱包材:ISPM No.15 国際基準と国別規則を確認。焼印マークが正本であることを理解。
- 金属製品:契約書、品質規格(JIS、ASTMなど)、取引先要求仕様を確認。証明書に必要項目(温度・時間・方法・ロット番号)が含まれているか確認。
- L/C取引:信用状条件に「Heat Treatment Certificate」が含まれていないか要チェック。
実務チェックリスト
- 契約書やL/C条件に「Heat Treatment Certificate」が記載されているか
- 木材なら焼印マーク確認で十分か、Phytosanitary Certificateの添付が必要か・
- 金属ならMill Certificateとセット提出が必要か
- 発行主体は製造元か、第三者機関が契約条件で求められているか
- 証明書に温度・時間・冷却方式・ロット番号など必須項目が記載されているか
まとめ
熱処理証明は、木材梱包材と金属製品で意味が異なります。
- 木材=植物検疫(ISPM No.15基準)でマークが正本、補助的にPhytosanitary Certificateを求められる場合もある
- 金属=品質保証(規格・契約条件に基づき、製造元が発行)で、ISOやAMSなど国際規格が条件となる場合もある
どちらの場合も、書類やマークの不備は輸入差し止めや契約不履行につながるため、事前に必要条件と発行元を確認しておくことが重要です。
要点
- 熱処理証明は輸出入で求められる重要書類
- 木材=ISPM15の焼印マークが正本、国や取引先によってPhytosanitary Certificateを要求されることがある
- 金属=製造元発行が基本で、契約に応じて第三者証明も追加される
- 証明書には温度・時間・冷却方式・ロット番号が必須項目
- ISPM15ではMB処理も規定されるが、禁止方向に進んでいる
- 植物防疫所と税関の役割を区別して理解する